


「かかってこいや」混沌、暴走、反逆──それは泉谷しげるが半世紀以上にわたってクリエーティブという言葉を武器に体現してきた精神である。 それは実は「漫画家になりたかった音楽家」と自認する泉谷が、70年代から描いてきたサイバーパンクという世界そのものでもある。テクノロジーが人間性を侵食し、システムが個を抑圧するこの時代に、泉谷のアートが放つ「生の叫び」 は、かつてないほど強いリアリティを持つ。泉谷しげるの絵には、計算された美しさも、なめらかな秩序もない。あるのは、剥き出しの衝動と、壊れかけた世界に対する苛烈なまでの肯定だ。その筆致は、まるで都市の片隅で今にも崩れ落ちそうな鉄骨 のように粗く、脆く、しかし確かに生きている。それはまさに、サイバーパンクのビジョン──華やかな未来像の裏に潜む、人間存在の不安定な美しさ──と響き合う。 今、私たちは再び「未来」という言葉に夢を見られなくなっている。AI、監視社会、気候変動──かつてSFが描いたディストピアは、もはやフィクションではない。だからこそ、きれいごとではない、泥臭くも激しい「生きる意志」をむき出しにした泉谷しげるの絵画が、私たちに必要なのだ。サイバーパンクとは、未来を悲観する物語ではない。どんなに崩れた世界でも、なお生き抜こうとする者たちの物語だ。そして泉谷しげるのアートもまた、同じ精神を燃やしている。音楽活動と共通する「暴発する感情」「既成の枠組みへの抵抗」が濃密に込められている。技術に翻弄される時代の中で、「人間」で あることをあきらめないために。今回の個展は、飾るためでも、眺めるためでもない。 生きて、壊れて、叫び続けるための泉谷にとっての戦場なのである。
──キュレーター米原康正より


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泉谷しげる 個展 <サイバーパンク展>

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